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チベット自治区・タングラ峠

時間:2006-8-23 16:09:00
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チベット自治区・タングラ峠

  陸路ラサを目指すというのはチベット旅行のひとつの醍醐味である。大草原と六千メートルを超える嶺嶺。想像を絶する雄大な風景が私たちを魅了する。問題は、高度障害による頭痛と吐き気も付き物であることではあるが……。

  その地で私たちは遊牧の民に出会う。無論、彼らは高度障害とは無縁である。鼻歌などを歌い悠々とヤクや羊を追っている。フト思う。人が日常的な生活を営むことができる標高の限界はどれくらいなのだろうか、と。帰ってから調べてみると、「標高五千三百メートルまで、そこでは酸素の濃度は海面の二分の一になる」、ということらしい。

 だとすれば、タングラ峠付近で出会ったあの遊牧民は、人類生存の限界地点で羊を追っていたことになる。タングラ峠は標高五千二百六メートル。

 若い女性が三人、「人類の限界」に挑戦しているなんてことも知らず、笑いながら羊を追っていた。その人なつっこさに誘われ、バスを止めボーっとした頭で声を掛けた。
「学校は行ってないの?」「写真を送るけど住所は?」
 バカな質問をしたものだ。そこは「人類生存の限界地点」だ。学校なんてあるはずがない。遊牧民だ。郵便が配達されるはずがない。

  顔は日に焼けて痛々しく赤い。さらには、ほこりにまみれ、チベットの遊牧民特有の顔色に作り上げられている。それでも、何の屈託もなく、人なつっこさを身体いっぱいに振りまいていた。 写真を見てはよく彼女たちのことを思い出す。あれは九月のことだ。今は冬。あの不毛の大地はさらに荒涼としていることだろう。風も吹きすさむだろう。雪も降るだろう。「学校なんて行ってないよ」。「住所なんてないよ」。彼女たちの赤い頬は、冬の嵐のなかでも笑っているだろうか。

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