― 六道輪廻 ―
左は「六道輪廻図」という。「輪廻」とは「全ての生きものは、迷いの世界である三界六道で生死を繰り返す」という思想で、「輪廻図」は言わばその生きものの世界を描いたものだ。やや専門的になってしまうが、以下に少しだけ説明を加えたい。
中心円にいる動物は「豚・蛇・鶏」。豚は「無知」、蛇は「怒り」、鶏は「欲望」という三毒の象徴である。次の円は左右に分かれ、人間が「悪・善の世界」で生死を繰り返していることを示す。三つ目の大きな円は「六道」、即ち「天・阿修羅・人間・畜生・餓鬼・地獄」という六つの世界である。「無知・怒り・欲望」の三毒煩悩こそが人間を輪廻転生=苦しみの中に引きずり込む根本原因であり、究極的には輪廻から脱して「悟り」に達するしかないのだ。
チベットの人々は輪廻転生を信じ、自分達も畜生の生まれ代わりかもしれないと考ているので、いたずらな殺生はしない。そして、輪廻転生の苦しみから救われるよう祈り、来世のために巡礼や供養などに励む。
― チベット仏教のご本尊は観世音菩薩 ―
チベットでは実に様々な神々が信仰されており、その数は数千に及ぶという。厳しい修行によって悟りを開いた「仏陀」即ち「お釈迦さま」は勿論のこと、阿弥陀、薬師、大日などといった「如来」もまた、同じく悟りの境地に達した神々である。
これに対して、「菩薩」はまだ悟りを求めて修行中なのだが、利他の心で人々を救済してくれる慈悲深い神として、チベット仏教の中心的な存在となっている。中でも、チベットの地を祝福するご本尊的の神様として「観世音菩薩」が最も厚く信仰されている。
この他、「名高い高僧」、「仏を守るための護法尊」、「寺や僧侶達を守る神」といったものや、土着のポン教やヒンドゥー教の神々などがチベット仏教の「パンテオン」(神々の体系)に加えられている。
チベット仏教には四つの主な宗派がある。右はその内の最大宗派である「ゲルグ派」の開祖・ツォンカパ・ラマの像だが、この高僧も先程挙げた「神」の一人であり、大衆からの人気が圧倒的に高いそうだ。
ラマ(師:グル)は必ずしも「僧」に限られる訳ではなく、人を導いてくれる「師」のことを意味する。因みに、「僧」とは独身の誓いを立てた修行者のことだが、いつでも還俗でき、段階的に教義を学んで「ラマ」になるという。
なお、チベット最高のラマはダライ・ラマ14世で、観世音菩薩の化身:「トゥルク」(活仏)でもある。現在、インドのダラムサラに亡命政府を樹立して居住しており、写真を所持したり、拝んだりすることは中国政府から禁止されている。
「ゲルク派」(黄帽派)の寺にはガンデン寺、デプン寺、セラ寺などがあり、他宗派に比べて戒律が厳しく、妻帯も禁じている。また、最も古い「ニンマ派」(赤帽派)はチベット土着のポン教の影響を受け継いだ宗派で、僧侶が赤い帽子を被っているのが特徴である。
僧侶には大別すると「修学僧侶」と「壮士坊主」の二た通りある。「修学僧侶」は学問をするために寺に入り、後で述べるように、セラ寺の大学などで仏教修行するには学費が必要となる。一方、「壮士坊主」は学費はいらないが、修学僧達の下僕になったり、水汲みや燃料のヤクの糞集めなどといった寺の雑用や、楽器の演奏、供養物づくりなどをさせられているという。

