どうやら文房具店といっても高級店らしい。町一番の目抜き通りに構えている店だから当然なのだが、ショーケースをのぞくと外国製品ばかりだ。日本のキャラクター製品もあるが、ドイツやアメリカなどの万年筆やボールペンが箱に入ったまま埃をかぶって高い正札をつけている。さして広くない1階をぐるっと回ってみたが、あの小さな文具店で動いた指は、ピクリともしなかった。
すぐ外に出る。前の道は歩行者天国になっているかと思っていたが、車が人をかきわけて入ってくる。これでは事故がないほうがおかしい。中国を旅していて何度そう思ったことか。実際交通事故件数は多いそうだ。我々旅行者が目にする機会は少ないが、車の保有台数からみれば、事故による死者の割合はかなり高いのだそうだ。総人口比から言えば比べ物にならないくらいに低いのだろうが、事故の場合は当事者にとつてはそんな数字は意味がない。我々旅行者は事故に遭わないように気をつけなければ。
町を南にぶらぶら歩き。白い鳩のマークのイトーヨーカ堂の屋上看板を見つけた。そちらへ方向を変える。ムー先生が追い抜いていく。アチコチ歩きながら先生の頭には成都の資料がまたインプットされているに違いない。同じものを見、同じところを歩きながら情報収集量の違い。ぼんやりと道に迷わないように歩いているのが精一杯の人間と、大づかみに理解した上で通りの特長を瞬時に見抜き、個々の商品の値段まで記憶してしまうムー先生のフィールドワークはなかなか真似できない。イトーヨーカ堂へはたどり着けないまま集合時刻が来てしまった。集まった人はそれぞれ2時間の買い物を公開し合う。ファンさんとチュウさんとキツさんが15分遅れて到着。
昼食は同仁堂から歩いて10分くらいのところにある四川料理の名店、蜀風園。大広間はなく、すべてがいくつにも仕切られた個室になっている。入口は狭いが昔からある名高い料理店に違いない。伝統的な給仕の仕方が残っている。主賓と覚しき人にまず料理を出し、説明している。この時はリンさんが一番奥に座ったからまずリンさんに最初の皿が見せられ料理の名前が告げられた。ところが話の様子でどうもムー先生が中心になっていることがわかったらしく、3、4番目からはまず一番に先生、そこから時計回りに動いていく。
八宝茶が出た。口の先が長い、1mはあろうかという急須のようなヤカンで遠く離れたテーブルの反対側からお湯を注いでくれる。これが見事だ。小さな茶杯一杯分のお湯が満たされたと思ったら、口の先がムチのようにしなって水を切る。初めのねらいを定めるのも大事な技術だろうが注ぎ終る時の方が難しいと思われた。
この注いでくれる青年の給料は客に何杯注いだかによって歩合になっているそうだ。技術を売る職業があることは素晴らしい。
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